津谷祐司 公式サイト

会社改革の500日


【R6 vol.5】人は、「プロセス中毒」を楽しんでしまう

2026/04/10

 

イランに対する米国の強硬姿勢を、あらゆるニュースがトップで伝えている。
軍事行動の是非はともかく、僕が気になるのは、トランプ大統領がなぜその目的や見通しを自らSNSに投稿し続けるのか、ということだ。

普通、見通しがコロコロ変われば信頼を失う。じっくり決めてから発表すればいい。
だが、あの「お騒がせ」な発信には、結論ではなく「途中経過」で人を動かす巧妙な計算が見える。

 
 

「日々発信すること」で既成事実を作る

 
以前の関税問題もそうだった。
派手なボードを掲げた発表で、高関税は一気に既成事実のようになった。
各国首脳は批判しつつも対策に追われる一方で、2か月後、米国憲法では大統領にそんな決定権はないと判決が出たときには、もう後の祭りだった。
 
人は道徳的な是非は判断するが、法律の細部までは知らない。
だから「大変なことが起きている」と認知が先に動き、影響や対策に意識が向いてしまう。
その結果、世界中の政府や市場が振り回され、米国は交渉を優位に進めることができた。

 
 

「アプレンティス」で培われた演出術

 
なぜ、こんな芸当ができるのか。
思うに、その大きなヒントは彼がかつてホストを務めた人気番組『アプレンティス(見習い)』にあると思う。
 
これは彼が若手ビジネスマンを罵倒し、脱落させていくリアリティ番組だ。
彼はそこで、大衆の関心を引きつけ、ハラハラさせて引っ張り続ける術を徹底的に磨いた。
 
強烈な一撃で、まず常識を壊す。
情報の小出しで、次の展開を追いかけさせる。
 
あの独特なSNSの使い方も、実はこの「プロセス中毒」を誘発する、極めて合理的な戦略なんじゃないだろうか。

 
 

誰もが「プロセス」に巻き込まれる時代

 
こうした「中身より過程(プロセス)で人を動かす」構造は、いまやSNSを通じてあらゆる場所で加速している。
 
都知事選や兵庫県知事選: 戦略の変化が逐一拡散され、選挙そのものが一つのストーリーとして消費される。
『タイムレス』『No No Girls』などのオーディション: 「誰が選ばれるか」より、「誰が苦しみ、伸びるか」という過程にファンが生まれる。
ワールドシリーズの山本投手: 投球そのものより、マウンドに立つまでの準備や葛藤のプロセスが、シリーズ全体を追わせる。
 
人は、長く接触し、迷いや苦境まで共有した対象に深く入り込んでしまう。
他人事だったものが、いつの間にか自分事となり、熱狂していくのだ。

 
 

人を引き込む「未完成」の魔力

 
映画づくりのときに学んだことを思い出す。
映画の中で、主人公は長い時間、悩み、落ち込み、受け身の状態にある。
どうしても静的になるので、編集時、最初はそこを短くしていた。
 
でも、それだと共感が生まれない。
そこで、一度カットしたフィルムを戻し、その「静かな時間」をきちんと描くようにした。
すると、観客が一気に引き込まれるようになった。
 
迷いまで含めて見せると、人はさらに深く入り込む。
「接触の法則」などと呼ばれるが、SNSによるプロセス発信は、これと同じ構造を日常的に作り出しているだけなのだ。

 
 

どう距離を取るかが問われている

 
この流れは、今後さらに広がるだろう。
誰もがプロセスを発信し、誰もが何かに巻き込まれていく。
 
一方で、少しだけ注意しておきたい。
巻き込まれると、どうしても客観性は揺らぐ。
また、注目を集めるために、プロセス自体が演出過多になる場面も増えていくはずだ。
 
出し手としては、どこまで見せて、どこを残すか。
受け手としては、どこまで入り込み、どこで引くか。
 
その前提で、どう距離を取るかが問われている。

 
 

休日の二日間、誰かの人生に浸ってみた

 
2月は、人と長く過ごした一ヶ月だった。
 
福井の実家では、母と二日連続で出かけた。
ショッピングモールでスニーカーを選び、海辺に新しくできたトレーラーハウスのリゾート施設をぶらぶらと歩いた。
神戸でも、広告会社時代の友人を訪ねて二日連続。
三宮の街を飲み歩き、神戸湾のクルーズを楽しんだ。
 

 
「プロセス中毒」という戦略的な話とは少し違うけれど、二日間、集中して誰かと過ごすと不思議なことが起きる。
 
普通の飲み会、たった2時間では決して出てこない話が、自然とこぼれ落ちてくるのだ。
日頃考えていること、生活のルーティン、仕事や人生に対する淡々とした感覚。
 
知らない景色を見るのもいいが、誰かの人生の断片にどっぷり浸かる時間は、なかなか面白い。 これも一種の「プロセスへの共感」なのかもしれない。
 
効率や結論を急がず、あえて「長い時間」を共有してみる。
すると、人は驚くほどぐっと近くなる。そんなことを再確認した冬の休日だった。

 
 

近況

 
63才の誕生日、ウナギを食べて家族に祝ってもらいました。
最近は、子供が大きくなったので、東さんと二人で小旅行を楽しんでいます。
 

 
 

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