津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


提案会② 型の活用で、課題解決 「A→Bフォーマット」

2015/03/03

 
ネットビジネスは、課題解決を繰り返すことで、ゴールにたどり着く
若手社員が上司に企画提案したいとき、簡潔に、かつ、説得力を持って提案するには、ど

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のようにまとめるとよいだろうか?ボルテージでは、実戦の場として、毎週、企画提案会を行っている。若い社員50人に、担当コンテンツの業績を上げるために練ってきた案を次々と発表してもらう。自分のアイデアや成果を皆に聞いてもらう場なので、毎回?かなり盛り上がる。会には決まりがあって、持ち時間は一人90秒、企画書はA4一枚、そして「A→B」というフォーマットを使ってもらう。今回はこれを紹介したい。

 

まとめ形式を「A→B」にしたのには経緯がある。この会を始めたころは中身の濃い提案というのが少なかった。問題点を指摘し、ロジカルシンキングで分解したようなものが多かった。自分の担当サイトなのに、「こういう問題があります」と得々と語るだけなので、「我々は評論家じゃない。どうするのかを具体的に言ってくれ」と怒ったのだが、すると次の会で、「こんなイベントで集客を図ります」と言ってくる。そのアイデアは一見面白いのだが、そのサイトの目下の課題は、集客ではなく利用継続だったりする。解決策が課題とチグハグなので、成果が出るわけがない。また、企画内容を細々、長々と書く者もいた。「結論は?何のために何をやるの?」と問うと、本人も分かっておらず答えられない。そんなことがあり、ある時点から、A4一枚で、シンプルに課題解決を表わすA(課題)→B(解決)を基本としてもらうことにした。
 

ABformat

 

ISSUE 現状を診断し、課題を絞り込む
一連のプロセスで最重要なのが、「課題は何か」を正確に把握することだ。ここが間違っていると、その後いかに頭を絞っても、無駄な努力になる。課題の追求には、全プロセスのエネルギーの7割を割くつもりで当たる。

 

課題とは、本来は、そのコンテンツの現状をあるべき姿と比較して、ギャップの大きな部

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分をいう。実は、このあるべき姿を規定するというのが難しいのだが、ネット企業は、実際には、KPI(重要指標)を用いる。

 

KPIとは、アクセス数、利用率、初回購入率などの数値だ。以前メカニズムの項で書いたように、一般にユーザーの消費行動は「アプリへのアクセス→無料利用→初回購入」と進むが、各頁にカウンターを仕込み管理画面上にKPIの値を表示することで、担当者は、ユーザー全体の行動をリアルタイムで掴むことができる。

 

例えば、今日の午後、新キャラクターのストーリーを追加したが、夕方、アクセス数が増え、逆に初回購入率が少し落ちる。これは多分、新しいユーザーが増えたことが原因だ。2日後、購入率が増加するが、これは、プロローグを面白いと思ってくれたユーザー達がストーリー購入に至ったため。といった具合に分析する。KPIを前日・前週値や基準値と比べ、状況を把握し続けるのだ。

 

KPIの変化の原因が明らかなときはよいが、たとえば初回購入率が1週間にわたり下がり続けていると、それを課題ととらえ、次に担当者がやるべきは、購入率が下がったその根本原因を考えることだ。原因追究には、「なぜそれが起こっているか」を繰り返し、さらに細かい指標を調べたりする。掘り下げていくと、図の例の様に、最終的に原因は循環してくる。また、原因には、自分達の力では変えられるものと変えられないものがある。いったんローンチしたストーリーの基本設定は変えられないし、アップストア上のランキングをコンテンツ会社の都合で上下させることはできない。解決策の対象となるのは、当然、変えられるものだけだ。

 

SOLUTION 3つの解決策を評価し、最善策を見出す
次のステップは、解決策の策定だ。新卒のうちは、解決案を一つ思いつくと嬉しくなる。それで、是非それをやってみたいと言ってくるが、「ちょっと待て、あと2つ考えて欲しい」と返す事にしている。「えっ」という顔をするが、3つの解決策を考えるのは大して難しくない。次のステップでもある評価項目の整理をし、落ち着いて表を眺めているだけで、いい案が浮かんでくるものだ。

 

次のステップは、3案の比較検討。ここで大切なのは、評価軸として、効果ばかりでな

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く、コストも考える事だ。新卒の時は、効果ばかりに目が行ってしまうのだが、その解決策を行うのはタダじゃない。複数のスタッフが作業したり、大量の広告

を出したり、エネルギー、時間、費用がかかる。時間や費用を、5人で3週間で105人日とか、外注費が100万円とか、概算で数値化しておくと比較しやすい。評価軸としてもう一つ重要なのが「拡張性」だ。将来、変化に対応可能か、といった時間での拡張性、また、他コンテンツへの展開が可能かなどエリアの拡張性を吟味する。

 

こういった効果、コスト、拡張性などを分類し、項目ごとにシンプルな数値や○×△で書き表す。記号を用い、パッと一目で客観的に評価できることが重要だ。表を眺めて、評価項目が必要十分かよく吟味する。

 

最後、3案のどれを選ぶかは、二つの方法がある。総合点が最高点を選ぶか、最重要の評価項目が最高点のものを選ぶかだ。後者は、一点主義といってよい。総合点で選ぶとどの項目ももう一歩といった半端な案になりやすく、一点主義の方がエッジが効いた案で成否がはっきりすることが多い。

 

以上の検討を、紙面を上下や左右に2分割してまとめ、大きな矢印ひとつで結んだのが「A→B」のフォーマットである。

 

コンテンツだけでなく、システムや人事の仕事まで構造化することに
この課題解決フォーマットを、コンテンツ制作や集客だけではなく、システム開発や管理面などにも適用していった。これらの分野でも、課題をいかに絞り込むか、がカギだったが、それに役立ったのが、各分野の仕事の構造化だ。

 

システムの仕事を構造化すると、現業の開発業務と、インフラの2パートに分かれる。さ

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らに、現業は、5つのステップ(与件確認、設計、プログラミング、テスト、運用)に分類され、インフラは4つのパート(体制、ツール、フォーマット、教

育)に分類される。この中で、問題が頻発している項目をその月の課題として抽出する、といった具合に用いた。人事の仕事は5つのパート(体制、採用、教育、配属、評価)、経理は2つのインフラパート(会計ルール、IN&OUTフォーマット)と3ステップ(データ収集、分類・計算、アウトプット)となる。
 

この構造化は、各部署ごとに改善案を考えるときだけでなく、全社的に新展開するときにも役に立った。たとえば、海外拠点を作る、といった際、人事は、外国人の採用、教育を考え、経理は、ドル対応の会計ルールやフォーマットをつくるといった具合だ。各部署の各項目ごとにやるべきことが整理しやすい。

 

「A→B」フォーマットには、変化の概念が含まれている。常に、明日を現状よりよくしようとする概念。全社員がその変化を積み重ねていくことで、ユーザー2600万人、売上100億円を達成したのだと確信している。

 

以上

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