津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


提案会③ 若手の本気を引き出す、一人90秒の「提案会」

2015/03/13


1.課題解決「A→B」の発表会
前回、課題解決フォーマット「A→B」を紹介したが、今回はその発表会について。会は「コンテンツ会」「G-PDCA会」などと呼んでいる。

ボルテージの主力商品は「ドラマ型コンテンツ」というもので、パズルゲームやカードバトルが多いモバイルアプリ業界においては非常にユニークな立ち位置にある。そのため、コンテンツ企画や組織運営に関し、お手本にできる企業がない。創業以来、ユーザーの心をどう掴むか、それを会社の業績にどう結び付けるかは、真っ白な状態から自分たちの頭を使って考えていくしかなかった。

この会を一言でいうと、全若手社員が考えた担当業務の改善策やその結果を月一度のペースで発表してもらう、というもの。若手社員にとって、下の2つの力を身につけるための、大きなトレーニングの場になっている。
  A:課題解決スキル
  B:実行リーダーシップ

ボルテージが、Fast50を8年連続受賞するほどの成長を遂げられたのは、この会によって、「若手社員を自律成長サイクルに乗せ、全社員の力を引き出した」ことが大きい。後述の準備を行えば、どのような企業でも同様の会を行うことは可能だと思うので、参考に紹介する。

「コンテンツ会の概要」

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会は毎週開かれ、参加は若手50人とマネジャー数人。若手のうち半数が、担当コンテンツの「改善プラン」や「実施した結果」について発表する。資料は「A4一枚」、持ち時間は「一人90秒」。全員の発表が終わると、マネジャー側がコメントし、会の最後には、良かった発表への挙手を取る。高得点者には、Qごとの全社会で賞金5万円の賞が授与される。

僕の見る限り、仕事の実力と得点は比例している。

発表者は、新卒から30才前後のチームリーダーまで。今では200人になるので、ソーシャルコンテンツ系50名、開発部門50名というように4つの会に分けている。

新卒社員にも入社2か月目から発表してもらっている。最初は、数字の使いかたがおかしい、ロジックが成り立たない、表現がすべてに重要マーク、と散々な出来だが、9か月も経つと一様にうまくなってくる。改善の要点を、説得力を持って短時間で説明できるようになる。

以前テレビで、トリンプ吉越社長の「早朝会議」を見たが、方法論が似ていて驚いた。若手が発表し、社長がビシビシ応答する。大きな違いは、吉越さんはその場で決裁していたが、我々は、明らかに筋違いの策以外は基本GOにしている。

2.コンテンツ会の始まり  評論家から解決者へ
この会は、もう10年続けており、会自体のやり方も年々バージョンアップしている。しかし、起業当初から、組織的な課題解決プロセスをうまく廻すことができたわけではない。

ネットコンテンツは、ローンチしてからが勝負だ。ローンチ後の追加ストーリーやキャラ、イベント実施で如何にユーザーを引き付けるか。うまくやれば、ヒット度を大幅アップできる。こういった作業を、課題解決や改善策と呼んでいる。

社員が20~30人の頃は、社長も社員もなく、みんなが一つの会議室で改善アイデアを出し合った。みな熱心なのだが、そのうち困った状態になった。若い社員たちは、「ココがうまくできていない」「リソースが不足だ」という指摘はたくさん出せるのだが、「では、どうすれば良い?」という解が出せないのだ。指摘することなど、誰でもできる、簡単なことだ。

当時、経営陣の僕と東は30代で、広告会社で10年近い実務経験があった。チームを率い、「困難な状況の中で成果をひねり出す」という経験を豊富に持っていた。しかし、社会人経験が2,3年しかない若手は、問題の指摘はできても、その根本原因を突き詰め、実現可能な解決策を短時間で構築する、という事が出来ない。本人たちが訓練不足なのだが、逆に、「有能なエンジニアが足りない」とか「広告を出すお金がない」などリソース不足を言ってくる。完全な評論家病だ。

小さな会社なので、すべてが不備なのだが、「その条件下で成果を出す」ことが必要なのだ。お金がない中で業績を上げねばならない。リソースは稼げるようになれば整えられるが、それまでは鶏と卵なので言っても仕方がない。だが、我々も、リソース不足を言われると痛いところもあり、そのため、若い社員が問題指摘係で、我々がその解決策を頑張って出す、という状態に陥ってしまった。

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このままでは、本人も会社も成長しない。若手をトレーニングし、評論家から解決者に育てようと、課題解決を徹底訓練することにした。それがコンテンツ会である。

振り返ると、「コンテンツ会の準備」として整備していったのは次の5つだ
   ①「評論家ではなく解決者であれ」という価値観を説く
   ②「課題解決のプロセス」を教える
   ③「課題発生ポイント」を小さく分解する
     (購買メカニズムを整理し、大5・中16区に分類。下図)
   ④「KPI」による課題の見える化
   ⑤「発表会」の段取り
     (持ち時間、会場レイアウト、マネジャーコメント、挙手採点、グループ分け)
 

前に「ネットはメカニズム」の項で書いたが、問題解決では課題を正確にとらえることが重要だ。だが、対象が大きすぎると、どこから考えて良いか手に余ってしまう。若手にもできるよう、課題発生ポイントを16区に分類し、KPIを見ればどこが悪いのかが一目で分かるようにした。そこから先、あるポイントが悪化した根本原因は自力で考えねばならない。なぜを5回繰り返す、というのが基本行動だ。ほかのデータを見たり、ユーザーアンケートも手掛かりになる。

原因を仮定できれば、解決策は比較的考えやすい。会で聞いた他人の解決アプローチは、大きなヒントになる。あとは、その思考過程の要点を、「A→B」の形でA4一枚にまとめればよい。

発表形式にしたのは、僕の広告会社での経験からだ。最もテンションが上ったのは、競合プレゼンの場だった。プレゼンに向け、電車の中でもトイレでも、アイデアを練り、説得ロジックを考える。徹底的に考えることを体得してほしかった。


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3.コンテンツ会の発展 解決者からリーダーへ(自律成長サイクルの確立)
「自律を促す上位者コメント」
コンテンツ会で、僕はアンカーコメントを出す役割を担った。一人一人の提案に対し、脳みそを高速回転させ、できるだけ的確にアドバイスするよう努めた。大勢が聞いているので、ひとつのアドバイスが先々、他のコンテンツにも影響する。数年間続けたが、毎週この一時間半の会が終わるとぐったりしたものだ。

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僕が恐れたのは、「好結果の報告会」になってしまうこと。そうではなく、若手が学んでいくプロセスを見たい。大切なのは、課題はこれでベストな解決策はこうなると、「考え方を事前に明示」すること。結果はすぐに出る。失敗したら、「考え方のどこが間違っていたか」を再検証してもらいたい。


そして、それをみんなにシェアしてほしいのだ。この「仮設→失敗→成功」プロセスを繰り返すことで、担当者が、「正しい課題解決のやり方」を自ら学ぶことができる。つまり、「失敗から学ぶ」だ。

上位者により事前の細かい指導があり、それで結果が出せた、「うまく行きました」という結果だけを聞きたいのではない。それでは、上位者は育つが、本人は育たない。他人の手を借りての成功からは、何も学べない。「失敗しました。けど、こうやればよいが分かりました」が多いほど、次につながるのだ。「失敗しっぱなし」は問題外だが。

自主性を重んじると、僕やマネジャーが会でどう修正指示を出すか、会の後、担当者にどこまで忠実に対応してもらうか、このバランスが難しい。先に、この会の基本姿勢はGOと書いた。ストップを出すのは毎回1件あるかないか、軌道修正のアドバイスは2割。8割、そのままGOだ。

会での「コメント方針」は、次のようになった。
   ①強制的アドバイスは最小限にとどめる。最終決定は本人とマネジャーに任せる。
   ②僕は時折、問題解決の高度・新鮮なアプローチ手法を示す。
      例:良い方法には「記憶に残る方法名、本質を現した方法名」を名づけよと指示。
   ③いちコンテンツ担当ではなく、全社視点での判断を示す。
      例:似た解決策を二つのグループでやる時には、一元化するように指示。
   ④直属の上司ではない、他部署のマネジャーがコメントする。
      担当者にとっては、他のマネジャーの意見も参考になる。同じような指摘がでる
      なら素直に従ったほうがよさそうだし、2者の指摘にズレがあるなら、更に考えが
      深まる。

「数値目標の設定」

自律成長には、結果の成否を担当者が自己判定できることが重要だ。そこで必要となるのは、各コンテンツ(各人)の目標値だ。この値を1年分足し上げると、その年の売上計画値100億円といった数字になる。

各人の目標値は、Qごとの評価面談を利用し、全員が上司と話し合って設定する。コンテンツのタイプや、過去の経緯、当人の力量も勘案し、「実現可能な範囲&やや背伸びした数値」を設定してもらった。これ以降、コンテンツ会は、PDCA会からG-PDCA会となった。GはGoal(目標値)のことだ。このGを目指して、自律的に課題解決を積み重ねてもらうことになる。

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「管理部門の目標」
プロフィット系とスタッフ系の会の形が出来上がったあと、管理部門に関しても同様の会を始めた。管理系は数値目標が難しい。コスト管理はあるが、スタッフ系(エンジニアやデザイン)ほど変動しないので目標とはならない。そこで考えたのが、業務分解だ。

ボルテージは年3割成長と規模変化が激しかったので、管理部門も仕事のやり方を毎年アップグレードしなければおっつかない。例えば、総務でいうと、IRプロセスの整備や社内イベントの開催。経理は帳票類や管理簿のWEB化、人事は、評価制度、給与体系、研修制度を、続々改善していった。こういった規模対応を、モレダブりなくやってもらうために、全部門の仕事を10項目程度に分解し、1年で1周分のグレードアップをしてもらうことにした。

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「マニュアルの整備」 (解決方法のサンプル提示)
「胸キュンで100億円」(KADOKAWA)でも紹介されたが、マニュアル制作も始めた。問題が頻出する箇所は、毎回、個別に手を打つより上位者をリーダーにした全社プロジェクトが有効だ。問題・解法パターンをまとめたり、ツール化などで根本解決を図った。当初は僕が先頭に立って作成していたが、リーダー格の社員が育ってくると、作成は彼らに任せ、僕はどの部門でどんなマニュアルを作るべきかを考えた。

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マニュアルをベースに社内研修も盛んに行った。採用人数も増やし、僕の役割は、企画立案から社員育成に変わっていった。

4. コンテンツ会のメリット
コンテンツ会の利点を整理すると、次の3つになる。
   ①若手が、「自分の頭で考え・行動する」ようになった
   ②仕事に対する「真剣度が段違い」になった
   ③仕事に「リズム感」が生まれた

「自分の頭で考え・行動する」 発表者としての年10~20回の真剣勝負が、若手が「考え・行動する」トレーニングの場として、しっかりと機能している。考えるというのは孤独な作業だが、発表会が待っているというプレッシャーが脳みそのテンションを維持する。会で聞いたアイデアはパクってもよいし、更に工夫すればよい。各人が良い策を出すべく切磋琢磨することで、さらに良い策がうまれる。

実行段階では、人前で発表したことからは逃れられないから、困難があっても、チームを巻き込み、使える手を総動員して形にしようとする。ひとつのチームは、制作部、エンジニア部、デザイン部、広告部、インフラ部の各スタッフで構成されるが、ある改善を行う際、各部が自部署でやるべきことを認識し、同時に発表することが多い。チームメンバー全員が、その改善で成果を出すべく、連帯感を持って事に当たっている。「○○が不足だからできません」というセリフは聞かれなくなった。全員の実行力が発揮されている。

「真剣度が段違い」 社員のモチベーションを上げるため、かつて、ヒットが出せたら給料2万円アップや、ディレクターに昇格という制度を試したが、効果はなかった。コンテンツ会を始めるようになり、若い社員の目の色は違ってきた。自分のアイデアを見て欲しい、という気持ち以外に、大勢の前で恥をかきたくないという意識が、日本人には一番刺激なのだろうか。

「仕事にリズム感」 広告会社は請負だったで、プレゼン日や納期がリズムを作っていたが、自主メーカーになるとそういった外部圧力がない。メーカーはどうやってリズムをつくるのか?その答えが「定例会」だった。毎週のコンテンツ会、毎月の全社会。全社が、そこに向かって仕事をする。週刊誌の編集部のように、締切り前のバタバタと締切り後の一息が繰返され、リズミカルに回るようになった。

コンテンツ会の紹介は以上だ。さて、社員にとってこの会は、常にアウトプットと成果を求められる厳しいものだ。残念ながら、初期には、その負荷に耐えられず辞めていく者もいた。しかし、自分の20・30代を振り返ると、自分でアイデアをひねり出し、壁にぶつかりながらも実行、それで結果が出せたときほど充実を感じることはなかった。ヒットビジネスで、多くのユーザーを熱中させ、会社の稼ぎも大きくすることができれば、自己の成長も実感できるだろう。このプロセスを通し、自分の力で仕事や人生を変えていけるという実感を持ってもらえればと思っている。

今の時代、機械的作業はコンピュータやロボットがやってくれる。「考える」仕事が重要になっていくことは言を俟たない。しかし、日本の教育システムの中では「自分の頭で考える」という訓練が十分されないといわれる。いろんな会社が「コンテンツ会」のような場を持つと、指摘志向だった日本人が解決リーダーとなり、日本が変わっていくのではと期待している。

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