津谷祐司 公式サイト

会社改革の500日


【vol.2】セッションという名の会議を楽しむ

2017/03/23

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社員が本音でぶつかり合う会議「セッション」

500日改革のひとつに、「セッション」という会議体の導入がある。セッションというのは、ジャズバンドが重低音のベースに、ドラム、ピアノを絡め即興演奏する、そんなイメージだ。参加者が自由に意見を述べ、議論し、曲を奏でるようにビジネスプランを叩いていく。
 
 参加するのは、各ユニット長と現場リーダーたち50名。僕や東、ユニット長が15分でプランを発表するごとに、「現ユーザーに受け入れられるのか」「予算はどこにつくのか」とリーダーたちが次々と質問を投げかける。現場リーダーは皆、部下を抱えているから真剣だ。後々、自分から部下にプランを伝えなければならない。納得できないプランを受入れると、自分が困窮することになる。
 

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 セッションを導入して数か月、今のところ、経営層と現場の距離は縮まったと感じている。しかし、このセッションはすんなり生まれたわけではない。たどり着くまで数年にわたる試行錯誤があった。何より、アメリカ在住中に受けた刺激が大きい。アメリカ人のあけっぴろげでフレンドリーな気質に深く触れていなければ、これほど自由闊達な会議方法は思い浮かばなかった。

 

SFスタジオでも小学校でも「楽しくなきゃ、集まる意味がない」だった

ボルテージのサンフラン・スタジオは現在30人だが、生粋の日本人はおらず社風はアメリカそのもの。毎月全社員が集まる「全社会」では、社長の僕が下手くそな英語で話すときこそ皆黙って聞いているが、各部門の番になると、担当者は軽いジョークから始め、良い報告にはイェー!の反応を求める。悪い話は肩をすくめ芝居っ気たっぷりに話す。ビジネス結果より、ジョーク受けが気になるようだ。
 
 僕の子どもが通う小学校も同じ。熟年シスターの校長は、朝礼で前日のバスケット試合の結果をノリノリで話す。発表はテンション高く、がお約束なのだ。4月の入社式で一時帰国し挨拶したときはノリの日米差にクラクラした。司会の「気を付け、礼!」の号令で新卒諸君が一斉起立、一糸乱れずお辞儀したのだ。事情を説明し、敢えて、僕に続いて皆にもイェー!とやってもらった。
 
 米国ではベンチャー大手も同じらしい。去年、フェイスブック本社を訪ねたときのこと。案内者が言うには、毎週金曜、中庭に数千人の社員が集まり、その中心にマーク・ザッカーバーグが立つという。ITなんて、かけらもない。まるで田舎の集会だ。「タウンミーティング」と呼ばれ、給料や休暇に関する社員からの質問に社長が直接答えるという。
 
 実は渡米前の数年間、僕自身、いくつかの新しい会議の形を実践していた。一つ目は「提案会」だ。若手社員に、日々の仕事から課題を見出してもらい、解決策を90秒で発表させた。毎月の発表をきっかけに、彼らにはPDCAサイクルを身につけてもらい、若手同士も上層部も誰がどこでどんな仕事をしているのかを知った。
 
 けれど、社員が200人、300人と増え、部門ごとに分割して会を行うようになると、他部門の動きが見えなくなった。若手にとってはトレーニングというメリットがあるため、会そのものは現在も続けているが、社員同士や上層部が互いを知り合う場としての機能は薄れてしまった。
 
 そこで次に、「NEXT会」を始めた。現場のリーダー層とトップ層が近い距離で話し、組織の問題点をあぶりだす会議だ。オフィスとは離れた場所に会議室を借り、完全にオフの状態で数十人を集めた。四人一組で席につき、白板に問題点を書き出しながら話し合う。問題の本質がわかれば解決方法は自ずと見つかり、一定の成果を出すことができた。

 

ワンマン社長からの脱出

僕の渡米中も、これらの会議は開催されていた。しかし、社内のぎくしゃくした雰囲気は変わっていなかった。このままではいけない。そう思っていたある日、東が開催した人事制度の説明会を見学し、ひらめきを得た。50人の現場リーダーに、給与や評価制度などを一項目ずつ説明し、その後は質疑応答で意見を求めた。リーダーからは「制度変更のメリットは?」「昇格ペースが不平等にならないか」と活発に意見が飛んでいた。
 
 そのとき、僕の脳裏にSFスタジオや小学校の光景がよみがえった。あれだ。あれをやろう。そうして始めたのがセッションだ。セッションの導入によって、社内は風通しがよくなった。社員の表情が変わり、自分が発信することで会社が変わると実感する社員が増えた、と思う。
 
 そして、僕自身も変わろうとしている。かつては高圧的な姿勢を貫いていた。社員に檄を飛ばし、自分であらゆる責任とリスクを背負い込み、「オレがしっかりしなければ」と言い聞かせてきた。けれど、在米中、僕がいなくても会社は最低限廻っていたし、つぶれなかった。重い荷物は、一人で背負うのではなく社員全員と支えればいいのだ。ワンマン状態から、抜け出しつつあるのかもしれない。
 
 今では、会議中に下らないジョークを言ってみたりもしている。皆も、結果が出たら「イェー!」とハイタッチをして、納得できないことがあったら「ブー!」とブーイングをするくらいフランクな気持ちで会議に臨んでほしい。ライブ演奏のように、セッションを通じて互いに本音をぶつけ合い成長していければいい。
 

取材・文 華井由利奈

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