津谷祐司 公式サイト

会社改革の500日


【vol.4】知られざるシリコンバレーの現場力

2017/04/28

 

アメリカのオフィスが波に乗っている理由

3月末、渡米しSFスタジオを訪れた。滞在は一週間。半年ぶりのSFスタジオは、かつてなく明るい雰囲気だった。毎月の利益はまだ赤字だが、壁のポスターやレイアウトが新しくなり、オフィスにはやる気が溢れている。

 

その理由は、2017年3月にローンチしたアプリにあった。この出足が絶好調だ。「Lovestruck (ラブストラック) : Choose Your Romance」という名の読み物アプリで、複数のストーリーがひとつのアプリに集約さている。現在入っているのはSFスタジオが企画開発した『Astoria』など4本。これまで、ひとつのアプリには1本のストーリーしか入っていなかったが、このアプリなら長く遊んでもらうことができる。ストーリーは今後も追加していく予定だ。

 

なぜSFスタジオの調子が上がってきているのか。その理由は、SFスタジオの組織が小さく、歴史がないので変化が起こしやすかった事にある。振り返るとこの5年、コンテンツ作りと働き方で3つのステージがあった。第一ステージが、日本のやり方をそのまま持ち込んだ時期。イラストはベタな日本アニメそのままだった。それを好む客層が狭いせいか、ヒットに至らない。次に思いっきりアメリカナイズした。アメリカ人スタッフの自主性に任せ、イラストも陰影の深い写実的なものに。今度は特徴がなくなり、アメリカ製アプリに埋もれてしまった。

 

結局、日本のテイストをアメリカ人が親しみやすいようにオブラートする形、日本とアメリカのハイブリッドなものにした。これでようやくアメリカの女性のハートを掴むことができた。微妙なさじ加減だが、そこを判断できるようになったということだ。大きな変化を短期間で繰り返したが、30名と小さく若い組織だったからできた。

 

シリコンバレーにあって、日本の大企業にないもの

そんな事を考えているとき、ある実業家の自宅を訪ねる機会があった。スタンフォード大学近くのロス・アルトス市に住む40代のパワフルな夫婦で、ご主人は中東出身、奥さんは日本人。我々と世代は違うが、夫婦でIT起業、3人の子持ちと共通点が多く東京で親しくなった。彼らは半年前シリコンバレーに移住し、ビジネスの拡張を図っている。

 

お宅は高級住宅街にあり、樹々が生い茂る広々とした敷地に、築100年のビンテージ家屋。まさに憧れのシリコンバレーライフだ。中庭のプールサイドでバーベキューをご馳走になっていると、日米のビジネスプロセスの違いに関する話になった。

 

日本の大手企業とシリコンバレーの最大の違いは、意思決定のスピードだ。僕がかつて働いていた広告会社でも同じことを感じた。大企業になればなるほど、現場の担当者が決定権を持っていない。そのため、プレゼンをしても反応が薄い。鋭いツッコミもない。必ず「持ち帰って検討する」と言う。シリコンバレーでは、担当者がある程度の権限を持っているため、会議のその場で足りない部分を要求され、契約条件を示される。どんな案件も迅速に次のステップに進むことができる。

 

大企業病を防ぐのは簡単ではないが、SFスタジオの成功体験から、組織を小さく区分すること、現場の責任者に権限を持たせることが大きいのだと確信している。

 

日本の現場に与えるべき2つのもの

思えば、日本の集団体制が奏功した工業時代は終わりつつある。今は軽やかなITの時代だ。シリコンバレーのように組織を区分し権限を現場に譲渡すれば、全てがうまくいくのではないか……。と、考える人もいるだろう。

 

しかし、そこまで話は単純ではない。日本の場合、組織を区分し権限を譲渡するだけでは会社が崩壊する。現場のリーダーに、ある程度の権限を与え、失敗から学び稼ぐ力を習得する時間を与える。経営者はその2つのバランスをとらなければならない。日本の一般的なリーダー育成法では不十分であり、SFの手法と掛け合わせて初めて真の成長が期待できる。
 

2つの拠点を同時に経営していると、その違いが顕著に見えてくる。そして、日米それぞれの会社が持つ背景を考え、双方の良さを学び、相乗効果を見出していくのが面白い。

 

半年前、アプリの売れ行きがもう一歩で落ち込んでいたことを思うと、SFスタジオは様変わりした。大胆なアイデアとたゆまぬ改善を続けたゼネラルマネジャー以下、スタッフの粘りに拍手を送りたい。とは言え、勝負はまだ始まったばかりだ。面白さ満載に育てて、今まで以上にアメリカの女性たちを唸らせてほしい。

取材・文 華井由利奈

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