津谷祐司 公式サイト

会社改革の500日


【vol.7】追わないと、叶わない

2017/09/13

【会社改革の500日 vol.7】追わないと、叶わない

 

目標をどの程度に設定すべきか?

 

会社経営で一番難しいのが目標の設定だ。特に改革期の今、新しい試みが多く先行きを見通すのは難しい。だが企業は、新しい価値を創造しつつ、ビジネスとしても成長させなければならない。1年後、3年後の売上額として、倍増を狙うか1割増で良しとするか?

 

社長の僕はなるべく高い数字を達成したいと思うし、現場を預かるリーダーたちは実現性を見てなるべく低く抑えようとする。改革の目標値の設定は、難しい問題だ。

 
 

目標が高いときのデメリット

 

目標を低く抑えようとする人の主張は、次の通りだ。

 

高い目標を追うと、競争意識が強くなりすぎ、社内の人間関係がギスギスしていらぬ争い事が増える。売上が倍増し会社が大きくなっても喜ぶのは社長だけで、社員は疲弊する。給料が2倍になるわけでもない。売上が上がった分、人も増えているからだ。結局うまく行かないのではないか?

 

また、成長を高く見込むということは、それだけ投資も増やすので、失敗したときの資金流出が大きい。社員の精神面でも、頑張ったのに達成できなかった場合、大きな喪失感が残る。いま楽しくやれているならば、そこそこ良い商品を作り続け、横ばい、微増の成長で十分ではないか?

 

しかし僕は、原則として、精一杯目線を上げた目標を設定するのが正しいと思っている。なぜそう思うのか?

 
 

横ばいでいいと思ってしまった時の末路(目標が低いときのデメリット)

 

人は一度「横ばいでいい」と思ってしまうと、工夫しなくなる。すると、懸命に工夫する競争相手に負けてしまう。結果、横ばいすら維持できず、会社は転落してしまう。

 

人間はみな楽な方に流れるので、何か良いチャンスにぶつかっても、組織をギスギスさせてまでと思ってしまうとモノにできない。そういうことが重なる。

 

環境はどんどん変化しているし、競合他社も必死で成長しているので、微増レベルではレース順位を落としてしまう。まさにゆでガエルのような状態だ。

 

やるなら、競争相手や業界全体より高い成長率を狙わなければならない。業界が1.5倍になるなら1.8倍を狙う。2倍なら3倍を狙うべきだ。かつて、ボルテージは年3割成長を8年続け、業界史上で最長を記録した。

 
 

高い目標を追って、手に入るもの

 

例えば売上を4年で倍増させるということは、年25%の成長を4年続けるということだ。この数字の達成は簡単ではない。けれど僕は高みを目指す。

 

では、高みを追って手に入るものとは、一体何なのか?残念ながら給料ではない。平均は上がるだろうが、全員が倍増とはならないだろう。著しく業績を上げた一部の人のみの話だ。

 

全員が等しく手にできるもの、それは“経験”だ。
これほど高い成長率を達成できたということは
・ヒットアプリが多数出せた
・新しい分野への事業も道筋がつけられた
ということ。逆に言うと、貢献した全員がこれらの過程を体験したということだ。事業戦略を練り計画を立て、チームを組み実行し、軌道修正しながら成功へとつなげた。各段階で、必要なことを自ら学び、脳みそを振り絞って考え、果敢に実行した。その4年間の経験を各自が持つということだ。

 

当然、ヒットや事業開発のノウハウが身に付いているだろう。人に語れる自分の実績も持っている。社内での昇格や転職の時、経歴書に成功プロジェクトの名前をずらりと挙げることができる。足元の給料や地位、環境の変化を恐れていては、高い目標への一歩は踏み出せない。

 
 

月面着陸は、追わなければ達成できなかった

 

1割2割のアップなら、労働時間を長くすれば到達できるかもしれないが、2倍3倍を狙うと、ビジネスの構造そのものを変えていかなければならない。商品や組織の在り方も、事業分野そのものも。今の世の中、IT業界だと5年ごとには会社を丸ごと変えるような変化が必要だ。

 

こういうことわざがある。「頑張って歩いても、月にたどり着いた人はいない」毎日、普通に頑張っているだけでは、偉大なことは成し遂げられない。月に着陸するというような偉業を達成するには、初めに目標として掲げる事が大切だ。

 

月面着陸に成功したのは、10年以内に人間を月に送るとケネディ大統領が宣言したからこそ。目標が明確だと、限られた時間の中、やるべき事とやらなくてよい事がはっきりし、日々の努力がゴールに向かって無駄なく積み上がる。頑張っているだけではだめだ。明確な目標意識を持たなければ。

 

スペースシャトル打ち上げの写真

駄目だったらどうする?と不安げな表情を浮かべる人もいるが、実際はどうしようもない。懸命に考え抜き、工夫し、果敢に実行したのなら、精一杯チャレンジしたことを噛み締めるだけだ。

 

20年かけて育てた会社だが、挑戦した結果、ダメで無に帰しても仕方ない。勝負は時の運。挑戦しないほうが、よほど悔いが残る。挑戦して、達成するか、華々しく散るか。僕もそうやって、この会社を引っ張ってきた。初めに、高い目標ありき。それを達成しようという意思ありき。

 
 

取材・文 華井由利奈

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