津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


成熟期① 「40年成長のしっぺ返し」から脱出しよう

2016/01/10

 
1.成長時代の方法をとるから、経済停滞から抜け出せない
経営の世界に「成功のジレンマ」という言葉がある。成功し大きくなった企業が、環境の激変により新しい問題に直面したとき、過去の成功法則をそのまま当てはめてしまい、却って事態を悪化させることをいう。環境が変わったのだから、行うべきは、過去の法則を捨て変化に即した新しい方法を見出すことだ。
 
僕が就職した80年代、日本は、米国、EUとともに世界経済の牽引車だった。しかし今や、中国にGDPで追い抜かれ、二大大国・米中に挟まれた存在感のない弱い国に成り下がりつつある。EUは自立の道を探り、ロシアは復権へ突き進んでいるのに、日本は、25年超の経済停滞から抜け出せず、世界の再編から一人置いてきぼりを食らっている。
 
この停滞の原因は、40年という戦後の長い成長のしっぺ返しなのだ。すべての日本人に成功体験が染みついているから、停滞に陥ったとき、成長時代と同じ方法論をとってしまった。今は人口減少なのだから、違うやり方でなければ効果は出ないのに。
 
最初にやるべきは、時代を認識し、考え方を切り替える覚悟をすることだ。国レベルだけでなく、企業や個人にとっても同じだ。日本の戦後70年をシンプルに整理し、今後なすべき対応を考えてみたい。
 

2.日本は、いつ、どのような変化を遂げたのか?
日本社会は、いつ、どのような変化を遂げたのか?人口とGDPの動きから大枠をとらえてみよう。細かなデータや数式は次の回にゆずり、ここでは結論だけ提示する。
 
下図を見てほしい。総人口のピークは2010年、生産年齢人口(15~64歳の人口・以下、生産人口)のピークは95年ごろ。以降は両者とも減少。特に生産人口の減少が著しいが、それだけ高齢化が進むということだ。もう一つ肝心なのは、出生率や平均寿命は急変しないので、30年ぐらい先の人口推計はほとんど狂わないということ。必ず起きる未来なのだ。
 
一方GDPは、50~60年代の高度成長期は年9.6%、オイルショックを挟み、70~80年代の安定成長期は年4.7%と成長が40年も続く。68年に西ドイツを抜き、日本はGNPで世界2位となった。80年代は一人当たりGDPがグッと向上した。しかしバブル崩壊後、1.1%とほぼ横ばいが20年続いている。
 
図を見ていて、日本の転換点は90年代の中頃にある、と僕は思う。それより前が成長時代で、それ以降が成熟時代だ。成長時代は、人口もGDPも右肩上がりの量的拡大を続けたが、成熟期時代は全体のパイが増えず、横ばいか緩やかな減少という状況になった。
 
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余談だが、ヒットコンテンツにも各時代が持つ価値観が鮮明に映し出されている。例えばアニメでいうと、成長時代の主人公は、『巨人の星』『ドラゴンボール』のように、より強く大きいものに挑戦する。90年代の転換期は『ガンダム』『エヴァンゲリオン』など、戦場から逃げて引きこもり、成熟期は『デスノート』『ライアーゲーム』『カイジ』など、あるゲームルールの中でパイを奪い合う。
 
昨今の『進撃の巨人』『ガンツ』などは、グローバル社会になったため、日本にいながらにして巨大な敵、米中、東南アジアの国際企業と戦わざるを得ない、悲壮な様相が描かれているように思う。
 

3.成熟時代の成功ポイントは 小規模、独自価値感、変化スピード、稼ぐ力、海外ネットワーク。
成長が成熟に移行し、成功法則はどう変わるだろうか?僕が考えるポイントをいくつか上げる。
 
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A 市場: みんな一律成長 → 独自の価値観が共存する多様な社会
多くのセグメント市場が、一律に成長する時代は終わった。人々の関心は、動きのない市場全体でなく自己や近隣に向けられる。結果、市場の細分化が進む。各セグメントは他者との差を明確化しようとするため、独自の価値観を持つに至る。社会全体では、多様な価値観が共存することになる。また、IT技術やファブレス化の進行により、変化スピードが速く、新陳代謝の激しい世の中になる。
 
B 供給者の規模: 大きくて一貫した組織 → 変化スピードが速い小さな組織が強い
供給側で力を持つのは、長期に一貫した事業を継続して成長した大組織ではなくなり、細分化とスピーディーな環境変化に対応可能な小規模組織。こういった組織は、特定市場に呼応することで、独自の価値観や得意技を持つようになり、時代とともにアメーバ的に変化していく。
 
C 供給者の能力: 資産規模の大きさが力 → 個人で稼ぐ力を持つ組織が生き残る
変化が激しい社会なので、ビジネスモデルの寿命は短くなる。ひとつのモデルで大きな資産を築いたとしても、一旦逆回転が始まるとあっという間に消耗してしまう。逆に、儲かるビジネスモデルさえ構築できれば、金余り時代、資金の提供者はいくらでもいる。ビジネスモデルの新陳代謝に長けた組織が強い。
個人レベルでいうと、成長時代は組織全体で一つのビジネスモデルを確立し、個人は営業職や研究開発など特定パートに特化していたが、これでは、変化を柔軟に乗り越えられない。小さいチームや個人が、市場発掘から商品づくり、販売までの全プロセスを体験し習熟する方が、変化に耐える力が強い。
 
D 対海外: 現地工場で日本流 → 海外の同志とのネットワーク
国内市場が横ばいなので、事業拡張には海外進出かインバウンド取込みが重要だ。どの先進国も多様な価値観の社会になり、単一の大きな塊の市場は少なくなる。現地に工場を作り大量生産するよりも、価値観や専門性を共有する各都市の小組織と提携する方が有益だ。ネットワークの規模を保つことで、グローバルな変化に対応し、刺激し合い、助け合い、ビジネスのレベルを上げていける。
 
4.リーダーは、客観データから起こりうる未来を想像せよ
人は、厳しい未来を察しても簡単には正面から向き合おうとしないし、ましてや考えを変えることもしない。長い低迷が続き、危機的な状況に陥って初めて、我に返る。それまでは、問題の先送りや見て見ぬふりを続ける。危機に立ち向かうには大きなエネルギーが必要だからだ。倒産のようなショッッキングな状況になって初めて時代が変わったことを理解するが、時すでに遅しだ。
 
リーダーがやるべきことは二つ。ことが起こる前に、未来を想像すること。常に、客観データに注視していれば、その延長線を考えるだけで先を見通すことができる。大掴みするだけなら、それほど難しいことではない。先ほどの人口やGDPのグラフで示した通りだ。そのうえで、自分の周辺で起こりうる問題をリアルに想像し、どんな解決策があり得るかを模索することだ。仲間に未来予想を説明し、新手法に挑戦する方向に引っ張っていかなければならない。
 
新しい方法は簡単に見つかるわけではない。大切なのは、多少は効果があるからと、旧来の手法をズルズル引き摺らないこと。未来と過去との違いを認識し、新しい方法を試す覚悟をしなければならない。幾つか試しながら、その成否をしっかり判断すれば、正しい方向は必ず見えてくる。(Y)

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