津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


『ナイトクローラー』が世界的ヒット!ピカレスク起業家の魅力

2015/10/12


ピカレスク起業家の魅力とは?(ネタバレ有り)

「起業で成功したいなら、ヒーローでなく犯罪者から学べ!」起業したての頃、僕が心に刻んでいた一言。『ナイトクローラー』の悪漢(ピカレスク)ぶりを見て思い出した。現実、何のバックも無い一個人が成功するには、犯罪レベルの常識破りが必要なのだ。実際に一線は超えないまでも。

主人公のルーは職にありつけず、パパラッチ映像ビジネスを立上げる。殺人現場を求めて夜のLAをさまよいスクープ映像をものにする。テレビ局に売りつけ、金を得る。次第に倫理を踏み外し…。

ルーは悪人だが、非難する気になれない。むしろ、もっとやれ!と応援したくなる。その魅力はなんだ?起業を考える人の参考になるべく、分析してみる。

魅力No1 起業家にマグマを注ぎ込む、現代の深い闇。湧き上る暗い欲望。

起業には大変なエネルギーが必要だ。起業家も生まれ落ちた時は普通の赤ん坊だが、若い心に何かがマグマを注ぎ込む。それは、社会の歪みだ。社会からのストレスを受けてエネルギーを溜め込み、成長する。大人になり力をつけると、今度はそのエネルギーでビジネスを起こし、世界に復讐する。

戦後、ホンダやソニーの創業者の力の源泉は、敗戦によるショックだったという。大人たちが叩き込んだ軍国主義が一瞬にして民主主義に宗旨替えされ、半生を否定された思いだったそうだ。彼らは重化学工業を進める政府を見限り、新分野の産業を立ち上げ、自力で世界企業に育て上げた。

現代社会では、生死を迫られる問題は少ない。しかし、デジタル化やグローバル化は地球規模の競争と格差を作りだした。民族対立も激化した。新しい歪みの出現だ。復讐の武器も、デジタル、メディア、マネーに変わった。

ジョブズは、移民の父から養子に出されたことを怒りに、全世界に自分を認めさせた。成功後も実父には会わなかったそうだ。孫正義は、出自ゆえに日本での出世の道を見限り、高校で米国に飛び出した。会社が大きくなった後も、常識はずれの展開は、日本を揺さぶり続ける。

クローラーでは、人々の欲望が利用される。格差社会の大衆が見たいのは、成功者が引き摺り降ろされる姿。ルーは視聴率を握り、自分を認めなかった社会を左右する力を手に入れた。

魅力No2 たった一人で、デカい計画を進める。日常は、孤独で禁欲的。
無から事を立ち上げるのに、チームワークは向かない。不明瞭な目的を複数の人間が持ち続けるのは難しいからだ。一人の執念・狂気が持続することでしか達成されない。
 
起業家が世間とつながるのは、恋人か仕事の相棒だけだ。多くて2人。事業を始めた起業家に世間は冷たいが、起業家と理解者との絆は、却って深まる。

ルーにとっては年増の女性プロデューサーだけが唯一の同志。野望を打ち明け、「一緒に上り詰めよう」と誘う。女性は「あなたに払っている大金で十分でしょ」と連れないが、最終的にはルーの映像をことごとく買い入れてくれ、ルーもそれに応える。一方、覚悟の定まらない相棒は、努力もせずに分け前を求める。愛想を尽かしたルーは、「信用できないヤツとは一緒にやれない」と突き放す。


起業家の日常は禁欲的だ。野望の前では、小さな幸せは障害でしかない。友人たちと語らう、恋人と食事を囲む、子供と戯れる。そうした幸せを日常に持つと、蓄積されたマグマが少しづつ流出し、力が抜けてしまう。幸せを遠ざけることでマグマを溜め込むのだ。

孤独を愛するルーの部屋には何もない。暗く殺風景な部屋にあるのはたった一本の鉢植え。水をやり、今日の出来事を話しかける。

魅力No3 計画遂行の行動は、大胆、リスクテイク。人の利用、裏切りも辞さず。
大組織と戦い、ライバルを出抜くには、頑張りだけでは勝てない。常識破りの手、違法ギリギリの手を繰り出すしかない。

番組ヒットを狙う女性プロデューサーはルーにささやく。「被害者は郊外住まいの金持ち白人。犯人はマイノリティーか貧困層。それが理想的」触発されたルーは、映りのいい位置に死体を動かし、襲撃されたばかりの邸宅に忍び込む。あげくには、犯人の集いに警察を呼び出し、銃撃戦を仕掛ける。


リアル社会で、かつて孫正義は、外資と組んで日本企業に対抗したり、強引なADSLキャンペーンを始めたり、力技を連発した。ジョブズも、アップルから追い出されたほど強引かつ自己中心的で、復帰後もその手法は変わらなかった。遠目には偉大な改革者だが、近親者にはクソッたれなのだ。

物語のラスト近く、ルーは成功を目前に相棒と対峙する。障害は排除しなければならない。ルーは真人間になるか、ビジネスを完遂するか?起業家と犯罪者の間には紙一重の差しかない。

5倍回収の世界的ヒット!
映像は、セリフ少なく、ハードボイルド調。独自性に制作者の気合いを感じた。調べてみると、本作は、長く脚本家を務めたダン・ギルロイの55才での監督デビュー作だ(脚本も)。

製作/興収は10億/47億 円($8.5m/$39m)で、5倍回収の世界的ヒット!起業映画のポテンシャルの証明だ!ちなみに、ハリウッドでは低予算といわれるが、日本なら大作規模。日本語は1.3億人、英語はネイティブ4億人、第2言語含めると18億人だから、製作費10倍は当然か。(Y)

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