津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


自プロ① 現代のキャリアを切り拓く「自分PDCA」という方法

2015/09/28

 
やりたい事が分からない20代が増えている
NHKの「若者アンケート」(2015年)によると、「就職活動のときに困ったことは?」の回答1位が「やりたい仕事がわからない51%」だったそうだ。確かに、「やりたいのはコレ!」との確信に至るのは簡単ではない。
 
取材のとき僕がアドバイスするのは、「自分PDCA」という方法だ。次の3ステップを繰返す。
1. 自分の興味や資質を見極め、キーワードに落とし込む。
2. やりたい仕事は、複数試すことで確信を得る。会社以外に個人活動でも試す。
3. 仕事や個人活動では、2年後のゴールを設定し、PDCAを廻す。達成後は次のゴールを模索する。
 
自分の興味や資質を見極め、キーワードに落とし込む
若いうちのやりたい仕事というのは、ゼロから作りだすのではなく、すでに世にある中から選び出すものだ。適正な選択をするために、まずは、自分自身の興味や資質を正しく把握しよう。
 
自分の興味や資質がどんなものかは様々な経験を通して自覚するものだが、特に子供時代を振り返ると、義務や焦りのない状況だからこそ素の自分が分かる。小中学生といえども体験は多岐にわたり、教科だけでも算国英理社・体美音があり、部活、委員会もある。友人との遊び、家庭での手伝いはもっと幅広い。これらの中で、何に夢中になったのか、思いだしてみよう。性格や能力も、同級生と比べることで自分の持ち味を知ったはずだ。僕の場合は、算数、実験、工作、お絵かきが好きで、寝食忘れてのめり込むタイプ。集団の中では、社交が得意でなく重要視もしなかった。
 
こういった振り返りは、就活中ならば誰もが一度ならずやるだろうが、効果的なのは、資質や価値観を短いフレーズに落とし込む事だ。ズバリ言い表すキーワードを見極めることで、頭の中が整理でき、考えやすくなる。僕の場合は、モノづくり、哲学、直観とロジック、自己決定、猪突猛進などで、就活時に至ったのが「アート&ビジネス」というフレーズだった。
 
自己診断だけでは不安なら、分析ツールが参考になる。例えば、エニアグラムというツールがあり、ネット上の90の質問に答えるだけで、次の9つの中から自分の価値観タイプを教えてくれる。20分で済む。
[理想を追求したい/人の役に立ちたい/効率的に成果を出したい/自分らしさを大切にしたい/じっくり探求したい/自分の役割を果たしたい/人生を楽しみたい/周囲に影響を与えたい/穏やかで安定的でいたい]
 
やりたい仕事は、会社と「自プロ」で複数試し、確信を得る
次に考えるべきは、自分の興味や資質は、どういう仕事なら活かせるかだ。具体的には、自動車や家電などのメーカーや販売業、金融や旅行などサービス業のうち、どの業種・業界に興味があるか選ぶことになる。また、企画・営業・専門職など、どの職種に向いているか、という選択もある。今の時代、選択カテゴリーはもう一つある。仕事の形態に関してで、普通の会社員だけでなく、フリーランス・NPO・起業・海外勤務といった手がある。
 
これらの選択を的確にやるための奥の手は目当ての業界で実際に働いてみることだが、日本でその機会は限られている。米国だと、インターンシップ制度を利用して半年、一年と試すことができるが、日本では、あっても一日体験的なものだ。だから、新卒時は、本で業界や企業を調べたり、OB訪問したり、親から意見を聞くなどして情報を集め、あとは、頭で想像を膨らませ、なるべくピンと来る会社を選ぶしかない。
 
僕の提案は、その後のことだ。長い人生で複数を試しながら合うものに近づいていく、という方法。ある仕事が合うかどうかは、やってみないと分からない。また、自分の適性を真に理解するには、社会に出て数年かかる。だから、年月を掛け、いくつか試すことで近づくしかないのだ。
 
しかし、頻繁な転職は弊害が大きい。20,30代で2回までが現実的だろう。そこで活用してほしいのが、個人での活動だ。僕は「自分プロジェクト」と呼んでいる。平日昼間は会社の仕事に全力を傾けるが、深夜や週末に仕事以外に興味のある分野を試してみるのだ。例えば、資格の学校に行ったり、NPOに参加する。また、原稿書き、自主製作、週末起業などを試してみる。
 
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仕事や自プロでは、2年後のゴールを設定し、「自分PDCA」を廻す。
「会社」と「自プロ」で試行錯誤しながら成果を上げるために、最初にやるべきは小さなゴールの設定だ。2年間は頑張れそうなゴールを具体的に掲げる。仕事上だけでなく自プロでも同じだ。例えば、納得のいく作品づくり、コンテスト入賞、資格の取得、専門分野でデジタル出版、小起業を軌道に乗せるなど。
 
ゴールの達成には、PDCAの手法が効果的だ。PDCAとは、簡単に言うと、ゴールまでの計画を立て、実行しながら、定期的に成果を見て軌道修正する、という方法だ。全体像は下の図のようになる。小ゴールを設定したあとは、こうすればゴールにたどり着けるという方法論を見出し、次にそれを一定のペースで実行していく。
 
ゴール達成の方法論を見出すには、成功した先人の体験や業界の中心にいる人の考え方を調べ、業界構造と、そこでの評価基準を知る事だ。「資格の取得」「起業」「小説の書き方」なら良い本がいっぱいあるし、レアな業界なら雑誌やWEBでロールモデルを探してみよう。直接取材を申し込むのも手だ。
 
方法論の見当がついたら、その実行だ。まず、年間計画と、それを刻んだ月毎のマイルストーンを定める。次に仲間を集めたりスクールに入ったり活動の環境を整え、週単位の行動パターンを決める。また、成功の基準に近づいているかどうか、月毎に自己評価することも欠かせない。仕事みたいで嫌な気がするかもしれないが、PDCAは物事を達成するための一般的手法であり、仕事にしか使わないのはもったいない。
 
僕の経験上、2年のつもりで始めても、上達して一定の成果が出せるにはトータル5年はかかるものだ。5年続いたということは、それだけ向いているということだし、競争力もついている。ゴールの達成後は、自分の目も肥え社会も変化しているので、それまでは見えなかった新しい地平が見えてくる。だから、次のゴールを違う分野に定めてもよいし、現路線のまま上を狙うのもよいだろう。
 
僕の場合のゴールの変遷をまとめると、広告会社の入社2年目、表現テーマは広告主からという広告の仕事に限界を感じ、映画留学をゴールに定めた。激務のかたわら脚本を書き英語の勉強を進めたが、半年後、簡単には合格できない事を悟った。2、3年は合格目指して頑張ろう。そう決めた時、PR館建設のプレゼンで勝ってしまった。3年掛りの大プロジェクトだ。映画留学を中断し、これを全うすることにゴールを変更した。並行して、自分プロジェクトとして建築士の資格にトライすることにした。3年後、PR館は完成したが、熟考の末、PR館企画を続けるより映画留学の出願再開を決めた。合格し渡米できたのはそれから2年かかり、大学院には3年半在籍した。PR館、留学準備、留学本番が交錯しているが、それぞれ5年づつ掛かった計算だ。
 
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現代のキャリアは、「自分PDCA」で切り拓く
こういった「自分PDCA」のサイクルを5年と仮定すると、職業人生40年の間で、ゴール見直しの機会は7回やってくる。そのうち3回が「大ジャンプ」、4回が「路線継続」というのが平均的だろうか。複雑でスピードの速い現代、人生を一本道で歩む必要はない。
 
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その昔、江戸時代の若者は家業を継ぐしかなく、逆にいうと迷いなくそこに集中できた。戦後の復興期は、貧困にあえぐ庶民に職業を選ぶ余裕はなかった。経済成長時代は40年続いたが、会社任せの受身のキャリア形成で、みながソコソコに出世できた。しかし、現代の日本は、全体が一方向を向いている時代ではない。終身雇用は崩れ、所属する業界が突然消滅してもおかしくない時代でもある。
 
結局、自分の道は自己責任で決めるしかない。道に迷うのは自由の代償だ。「自分PDCA」であらゆる可能性を試し、ベストな道を見出してほしい。(Y)

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