津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


成熟期② 生産人口と一人GDP

2016/01/12

 
前回の「40年成長のしっぺ返し」で述べたように、日本は、90年代前半を境に成長から成熟時代に移行した。その根拠となる人口動態とGDPのデータを簡潔にまとめる。

 
1.40年で4000万人増、その後20年で700万人減。時代の大変化は明らか
(総人口)
まず、人口データから。戦後一貫して増え続けた日本の人口は、80年代になると伸びが鈍化し、2010年に1億2806万人でほぼピークを迎えた。1955年から見て43%の増加だ。今後減少は続き、30年後の2048年には 1 億人を割ると推測されている。
 
(生産人口)
もっと深刻なのは生産年齢人口(以下、生産人口。グラフ青)だ。生産年齢とは15~64歳をさすが、この層は活発に働き、同時に旺盛に消費する層でもあり、生産活動、個人所得、個人消費の中核となっている。その増減が景気に与える影響は大きく、90年以降、総人口はゆっくり増え続けていたのに景気低迷が始まったのは、生産人口の減少が始まったからだといわれる。
 
生産人口は1995年にピークを付け、以降、総人口より速いペースで減少を続けている。高齢化が進んでいるためだ。人口に占める生産人口の割合は、2010年に64%あったが、約30年後の2051年には50%まで下がると予測されている。稼ぎ手が半分になるということだ。
 
(人口減少の確実さ)
人口減少は、たとえ出生率が劇的に上がってもすぐには好転しない。母数となる出産適齢期の女性の数が減り続けているからで、出生率だけが上がっても生まれてくる赤ん坊の絶対数は増えない。子供の数が増加に転じるには、赤ん坊が大人になり次の世代を産むという繰り返しを待たなくてはならない。数十年が必要となる。現実的には、出生率が今すぐ上昇しても、今世紀中に人口減少がストップすることはないそうだ。日本は今、歴史的な転換点に立っている。
 
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2.GDPと一人GDPは、90年前半で失速
(GDP)
一方、GDPはどうだろうか?(グラフ赤線) 日本は敗戦で焼け野原となったが、1954年から73年までの19年間は平均で年9.1%という飛躍的な成長を遂げ、高度成長期と呼ばれた。池田隼人の所得倍増計画、東京オリンピック、大阪万博があり、テレビ・洗濯機・冷蔵庫などの家電や自動車が家庭に普及、住宅需要も旺盛だった。68年、西ドイツを抜きGNPで世界2位となった。
 
その後、71年ニクソン・ショック(変動相場)、73年オイルショックがあり、一時、景気は後退するが、盛り返し、73年から91年までの17年、4.2%の安定成長を続けた。70年代は省エネルギーや公共投資、80年代は円安の影響もあり、自動車や家電などハイテク産業を中心に輸出が増加した。
 
しかし、91年のバブル崩壊以降、1.1%の低成長が続き、失われた20年といわれた。下図は、人口とGDPの動きをシンプルに表したものだが、90年代前半で成熟時代に入ったのが分かる。

 

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(人口とGDPの関係)
人口とGDPの関係は、下の式になる。

 

GDP成長率 = 人口増加率 + 一人当たりGDP伸び率
一人当たりGDP伸び率 = GDP成長率 ÷ 総人口
= (GDP成長率÷生産人口) × (生産人口÷総人口)
= 生産人口一人当たりの生産性伸び率 + 生産人口比率の増加率

 

GDP成長率は、人口増加率と一人当たりGDP伸び率の合計だ(以下、一人GDP)。前の表を見てほしい。高度成長期にはGDPは9.6%伸びたが人口増は1.1%に過ぎない。この差、8.5%が一人GDPの伸び率である。GDPには、人口増より一人GDPの伸びのほうが寄与が大きかったということだが、最後の式にあるように、一人GDPの伸びにも生産人口が関与するので、人口減少が経済にもたらすインパクトは大きい。

 

ところで、目指すべきはGDP成長か個人所得の伸長か?いろんな考え方があるが、国全体はさておき、個人が豊かさを感じるには一人GDPが重要なのは間違いない。一人GDPを掘り下げる。

 

3.一人GDPの失速は、成果が下がっている。成長分野へのシフト、構造改革が必須
(一人負けの日本)
日本の一人GDPの伸び率は70年~80年代は高いが、90年代に入って大幅に落ちてしまった。左グラフを見ると、ドイツやフランスなど同じく成熟期にある国と比較しても落ち込みの大きさがわかる。

 

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右グラフは、先ほどの最後の式にあるように、GDP伸び率における生産性の伸び率と生産人口の変化率の内訳を表わしている。赤の生産人口の減少より、青の生産性の低下の方が問題が大きい。

 

(生産性が落ちた理由)
問題は、どうして生産性が落ちてしまったのか、どのようにして生産性の向上を図るか、ということだ。この辺から少し話がややこしくなって、マクロ経済を語る人たちの中でもいろんな解説があるが、僕が納得するのは以下のような説明だ。

 

まず、生産性とは、投入量(input)と産出量(output)の比率で、具体的には以下の式になる。
 
生産性 = 付加価値額(産出量) ÷ 投入労働量(労働者数×労働時間)
 
一般に生産性を上げるというと、生産量をキープしたまま、機械化などで人手を減らすことを想像する。つまり分母を減らすという考え方だが、これだと、工場ひとつの場合は生産性は上がるが、需要が減少傾向にある今、国全体でやると失業者が増えますます需要が減ってしまう。だから国全体で考えるときは、分母(=労働投入量)を減らすのでなく、分子(=付加価値額)を増やすことを考えなければならない。

 

では、分子をどのように増やすのか。これは、一人が同じ働きをしたとき、より多くの付加価値を産み出す方法ということだ。従ってヒトやカネが効率よく使われるところ、つまり成長分野や需要の多いところへ人材をシフトするということだ。産業構造を時代に合わせ最適化させる。成長の芽を摘む時代遅れの規制も撤廃すべきだ。

 

残念ながら現状では、需要の見えない地方空港の開発といった公共投資や、雇用調整助成金を配ってリストラ(≒構造改革)を抑制したりと、旧来の産業構造を守る方向に政府が動いている。

 

(具体的な解決案)
個人や企業レベルの対応策について、僕の考えは前回書いた。ここでは、国レベルでの対応策について、識者たちの意見をいくつか紹介する。要は、成長分野に資源をシフトし、成熟社会に適した産業構造に作り替えること、時代に合った教育をすることだ。

 

・経済の7割以上を占めるサービス産業の生産性を引き上げる。
・特に需要増加が見込まれる、医療や介護サービス分野で、既存の仕組みを改革する。
・農業分野はポテンシャルは高いが、今のままでは国際競争力がない。時代遅れの制度を改革。
・製造業の海外展開を進める。特にアジアの中間所得層に向けての展開を強化する。
・IT分野では、起業をバックアップする仕組み、人工知能やビックデータなど成長分野を活性化。(Y)

 

「参考資料」
・2100年、人口3分の1の日本 鬼頭 宏
・デフレの正体 藻谷浩介
・日本経済論の罪と罰 小峰隆夫
・日本経済が全く成長していない3つの理由 波頭 亮
・日本が「一人当たりGDP=6万ドル」の壁を突破するために必要なこと 伊藤元重
・人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス ⽩川 ⽅明

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