失敗の山から、光明を見出す 「広げながら絞込む」という方法
映画づくりを始めた。コレぞ!に至る方法は?
去年の夏、14年務めた社長業を退任し、映画づくりに再挑戦することにした。『起業家をテーマにした映画』をつくるべく、久しぶりに脚本づくりに取り掛かった。しかし、考えがまとまらない。あれこれアイデアを膨らませて制作ノートに書きつけたが、考えは拡散する一方で、積み上がっていかないのだ。
「コレぞ、というアイデアに至る」には、どうすればいいんだっけ?あがくうちに、広告会社で学んだ成功法則を思い出した。それは、「目一杯広げながら、絞り込め」ということだ。
オリジナルなコピーを書くために、500本を書き尽くせ
広告会社の新卒研修でのこと。著名なコピーライターである講師が言った。コピーライターがコピーを書くとき、いきなり素晴らしいものを書けるわけではない。最初に出てくるアイデアは、素人のものと大差ない、ありきたりなものだ。10本、30本と書いても、そんなに差は出ない。ただし素人は、50本も書くと行詰る。それ以上は出てこない。
プロのコピーライターは、そこからが違う。100本、200本と書いていく。脳みそを絞り、無理やりにでも世界を広げ、書いていく。そうして300本500本と書きつくし、もうこれ以上出ない、となったとき。その最後の一本。これこそが、独創的で、素人には出せないレベルのものになっている、というのだ。
ただの力技だ、ともいえる。単に、ひたすら粘り、最後の一滴まで絞り出す根性論であり、カッコのよいものではない。でもそれが、プロの姿勢なのだ。その後広告企画を考える立場になってからは、実際に、できるだけ多くのアプローチを試し、最もイケそうなものを絞り込む、という手順を繰り返した。それで、少しづつ、実績を上げることができたように思う。
失敗の山から、いかに早く正しく、光明を見つけるか
この方法論を発展させ、長年、僕の行動原理になっているのは、「広げながら、絞り込む」「ある程度考えたら、やってみて、失敗から学べ」というやり方だ。留学や起業のときも、コンテンツ企画や経営課題に対処するときも、この方法で解決策をひねり出し、決断してきた。
方法論をまとめると、次のようなステップになる。
(1) 課題に対するアイデアを、できるだけ多く考える。
・本質を掘下げ、構造を捉え分解し、両極端に幅広く考える。
・本を読んで世界を広げ、人に話して反応を見る。
(2) その中で、良さそうなものを2,3に絞り込む。
・なぜ選んだか、「自分の原則」を短い文章で書く。
(3) その2,3を、実際にやってみる。大抵はうまく行かないが、めげない。
・失敗の原因、原則の間違い、を特定し、原則文を修正する。
(4) さらに、実行&方向修正を繰り返す。必ず正しい方法論に行く着くはずだ。
これは、「量質転換」の方法であり、「失敗の山から、光明を見つける」作業である。事を起こす前に十分に考えつくすことは当然だが、人間が想像できることなどたかが知れている。やってみて初めて分かることは多い。肝心なのは、実行前に「原則文」をしっかり書くことだ。失敗後、必ず原則文を修正する。これを繰り返すと、原則は経験に裏打ちされた完成度の高いものになる。短い原則文は、記憶に残り、新たな状況に応用しやすい。
失敗の山を無駄に築け、というのではない。漫然と同じ失敗を繰り返していては、成功はおぼつかない。いかに賢く失敗するか、次の成長に結び付けるか、ということが大切だ。ボルテージでは、この考えに基づき、全社員に毎週G-PDCAの発表会を行っている。
今回の映画も、さらに広げ、ぼんやりゴールが見えてきた
さて僕は、この半年、一人悶々と、テーマを模索し、ネタを拾い、いろんなキャラクターやあらすじを考えてきた。あらすじは6種類、ノートは7冊にもなった。しかし、コレぞ!に至っていないということは、試行錯誤がまだまだ不十分ということだろう。
年明け、日本に帰国した際、もっとネタを拾おうと、精力的に人に会うことにした。起業家の卵たち15人に会い、生の声を聴き、脚本家にもアドバイスをもらいに行った。参考映画を手当たり次第に観た。今、その中から、ようやくゴールが見えてきたところだ。