津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


ドラマの葛藤を生みだすのは「思想の対立」だ!

2014/09/10

 

1.ドラマは思想対立
起業家映画の脚本を書いている。ようやく全体像がぼんやりと見えてきた。
ドラマをもっと深くしたい。ドラマが面白いとはどういうことなのか、改めて考えてみた。

 
その昔、映画を学び始めたころ、脚本の教科書には、ドラマとは「貫通目的と障害が起こす葛藤」と書かれていたが、僕にはピンとこなかった。目的と障害というと、主人公が恋人を救うため竜と戦う、といったイメージで、ハラハラするし頑張れと思うが、それだけだ。主人公の「内的な悩み」が発生せず、深いドラマを感じない。僕の結論は、ドラマとは「思想の対立」であり、それが葛藤を引き起こす、ということだ。

 
辞書を引くと、葛藤とは「心の中に相反する動機・欲求・感情などが存在し、いずれをとるか迷うこと」とある。義理と人情の間で葛藤する、と例文が添えてある。

 
ドラマの場合、主人公の心で相反するのは、生きるための思想や価値観だ。例えば、リスクを背負っても自由に生きたいのか、他人にも自分にも規律を守らせたいのか。保守と革新では、どちらで生きたいか?主人公は、厳しい環境の中で、どの考え方で行動すべきか、人生の選択を迫られ続ける。 

 
この相反する思想AとBが、どちらも魅力的だと、主人公の悩みは深くなって、ドラマは面白くなる。
 

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2.ビジネス物だと、どんな思想が対立するか?

逆に言うと、面白いドラマを作るには、二つの選び難い思想を作り上げる必要がある。

 
ビジネス映画では、どうなっているだろうか?
ソーシャルネットワーク、ウォール街、ダラスバイヤーズクラブ、フラガールなどを見直した。思想が火花を散らしぶつかるのはクライマックス。ここを中心に、これらの映画を検証してみよう。

 
『ソーシャルネットワーク』は、フェイスブックの発案から成長までの実話が元

主人公マークによるフェイスブック成長の陰には、長年の親友エドと、憧れの起業家ショーンの2人がいた。
クライマックスでは、事業をもっと成長させたいマークにとって、堅実路線を主張するエドは邪魔になる。一方ショーンは、成長のための的確なアドバイスをくれたが、今や稼いだ金を派手なパーティや女に散財する困り者だ。

 
マークの心は、二つの間で揺れる。
A 事業成長に貢献してくれた二人を、大切にすべき

B さらなる成長には障害なので、追い出すべき

マークは、B「追い出し」を選び、実行に移す。 
エドには、株の分割契約書にだまし討ちでサインさせ、権利を失わせる。ショーンには、コカインパーティを密告し警察に逮捕させる。

 
マークの決断が正しいかどうかは、映画では示されない。辛いのは、仲間切りの代償として、孤独になることだ。映画のラストは、暗い部屋で一人ぽっちのマークが、かつての彼女のフェースブックを見るのが映し出される。

 
映画の冒頭では、この逆の光景、マークが切られる場面が描かれる。学食で彼女と11分も長話しするシーンで、マークは上流階級へのコンプレックスをさらけだし、同時にハーバードを自慢し彼女を卑下する。そして彼女に絶交される。葛藤の軸は、最初から最後まで、人との繋がりvs仲間切り、である。

 
『ウォール街』は、若い証券マンのバドが、成功を夢見て、大投資家ゲッコーに憧れ、取り入る話

バドの前には、もう一人の大人、実の父がいる。倒産危機にある航空会社で働く労働階級の整備士で、組合委員を務めている。この二人の持つ思想が真っ向から対立していて、分かりやすい。

 
A ゲッコー 貪欲に金を稼ぐことは悪いことではない。この活力が国の経       済を発展させる。
B 実の父 企業は、組合員が安心して働けるような経営をするべきだ。

 
道徳的にはBが正しいだろうが、公開された80年代、米国人にとってゲッコーの人間像は魅力的だった。
日本が台頭し、米国経済は勢いがなく自信を無くしていた。ウォール街でゴールドマンサックスの社長がしたのが有名な「貪欲は善だ」のスピーチ。映画の中でマイケル・ダグラスのゲッコーが見事に再現している。

 
実の父は、弱いものの味方のようだが、一概に正しいとは言えない。当時のアメリカは航空会社の数が多過ぎ、何社か淘汰されるべきという社会コンセンサスがあった。また、労働者による過剰な権利主張は企業の力を弱め、倒産のキッカケになるとも言われた。AとBが、甲乙つけがたい社会情勢だったのだ。

 
A「貪欲」をめざし行動してきた主人公は、クライマックスでB「仲間」を取る。ゲッコーを経営陣から追い出し、航空会社を守ったのだ。しかしその方法は、インサイダー取引で逮捕された自身が、ゲッコー関与の証拠を示し司法取引することだった。仲間を取って、かつての師匠を売ったのだ。

 
ちなみに、ビジネス物での「死」は、アクション映画のように銃で撃たれて死ぬことはなく、仲間の密告による逮捕、といった「社会死」の形をとることが多い。

 
『フラガール』は、炭鉱村で、東京から来た先生が地元の娘達をフラガールに育てる話

フラガールでは、女性3人が主人公だ。東京からきたダンスの先生。炭鉱村の娘、その母親。それぞれが異なる思想を持ち、三つ巴で反発し合う。
A 母 過去を大切にして生きる。仕事とは、歯を食いしばって働くもの。

B 娘 新しい生きる術に挑戦したい。

C 先生  プロとして踊る。悲しいときも、舞台では笑顔。

 
母親は、古い価値観を引きずる地元民代表。炭鉱に誇りを持ち、裸衣装で腰を振るフラダンスを嫌悪する。
娘は、先のない炭鉱に見切りをつけ、フラダンスに突破口を見出す。こわごわとダンスを習い始める。
先生は、プロダンサーとしての厳しさを持つ。若い生徒の熱意は受け入れるが、古臭い田舎になじめず、母親世代とは対立する。

 
クライマックスでは、母vs先生、先生vs娘、娘vs母の三つの戦いが、カットバックで進行する。父の落盤事故を押して舞台を務めた生徒をかばう先生に、母親が「もう東京に帰れ」と迫る。しかし、母親は、娘の真剣な踊りを目の当たりにし、「歯を食いしばるだけが仕事と思っていた」と軟化。娘たちは、帰京の列車に乗った先生を追いかけ、ホームでフラを踊り「あなたを愛しています」とジェスチャーで伝える。これらで3者が和解し、ラスト、本番ダンスで皆の歓喜が爆発する。
 
 
3.思想の対立は、クライマックスまで2段スライドする

最後に、思想の対立が、冒頭からクライマックスへどう変化するのか、そのプロセスをまとめたい。

 
『ダラス』は、エイズになった主人公がたった一人で、製薬会社とFDA(米国厚生省)の癒着に挑む話。

対立する思想は、次のように進化する。
1幕 
A 自堕落で、他人に責任転嫁する人生
B 困難に、立ち向かう人生 

2~3幕 
A 自分利益のために戦う
B 他人貢献に意義を見出す

 
クライマックスで主人公ロンが女医にいうのは「生き延びた時間を、もっと個人の楽しみに使えばよかった。旅行とか。子供も欲しかった。でも、政府との戦いに使ってしまった」 女医は「それでよかったのよ。あなたの人生には意義があった」と応え、二人は抱き合う。これが決めの一言で、ロンの選択B「他人貢献」を肯定している。

 
ちなみに、葛藤とは、ロンと政府との戦いを指すのではない。上記の葛藤は、主人公の内面にあり、戦いは、これらの思想が行動となって表出したものだ。

 
思想対立のプロセスは、一般に次のようにまとめられる。
 

140910思考対立クリエ2

 
1幕
主人公の環境が変わる。 新しいことを始めたり、新しい街に行ったり、アイデアを得たり。
そこで、新しい人に出会い、生き方Bを教えてもらう。新しいことは、今までのAではうまく行かない。Bでやっていく決意をする。

 
2幕上
Bで何とかやっていこうとするが、今までAでやってきたので簡単ではない。
出会った人の助けもあって、何とかBを半分達成する。

 
2幕下 
Bを半達成したがゆえ、A側のかつての仲間などからの逆襲が本格化する。
主人公をAに戻すべく、あれこれ邪魔をしてくる。主人公は切り抜けながら、Bで生きる決意を深める。

 
3幕 
A側からの最終妨害を受け、主人公は戦い、Bのデメリットも受け入れて、Aから完全に離脱する。

 

以上

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