なぜ、「Japanアニメ」は 「アメコミ映画 」に圧されたのか?
米国サブカルファンは、2層に分かれている。
サンフランに住んで2年、「アニメEXPO」「コミ・コン」に参加し、アメコミ映画の劇場に通い、米国のサブカルファンを生で見てきた。感じるのは、サブカルファンには「アメコミ派」と「日本アニメ派」が存在し、二つはほとんど重なりがないということ。前者は40代男性中心、後者は30代女性が多い。重なりがないので、日本アニメのイベントで40代男性は見かけないし、逆にアメコミ映画に30代女性はいない。
どうしてこうなったのか?調べてみると、ファン層の形成に影響を与えたのは「アメコミ→日本アニメ→アメコミ映画」というブームの変遷だった。
80年代の「アメコミバブル」から、1995~2006の「日本アニメブーム」へ
80年代、「アメコミ」誌は読むためというより、「株」のように売買価格の上昇を見込まれて買われるコレクター商品となっていた。一般雑誌はスーパーやキヨスクで売られるが、検閲を嫌うアメコミはコミック専門店で売られた。流通規模は小さく、全米でもたった5000店しかなかった。価格は年々吊り上げられたが、90年代、バブルは崩壊しアメコミ誌はぱったりと売れなくなった。出版社が乱立し、低品質コミックが供給過剰となったためだ。
「アメコミ」崩壊の一方、1989年、「AKIRA」のビデオ販売が10万本を突破し、「日本アニメ」への注目が一気に高まった。数年後、1995年からの11年間は「日本アニメ」がブームとなった。
まず、1995年に「ドラゴンボール」「セーラームーン」のTV放送が始まり、翌年「攻殻機動隊」がビルボード誌のビデオ販売で1位を記録。僕も、ハリウッドのバージンメガストアで壁一面のビデオパッケージを目撃し感慨深かったのを覚えている。
1999年、任天堂のゲーム「ポケモン」がヒット。テレビアニメ化され、一大ブームとなった。映画「ポケモンミューツーの逆襲」が制作され、興行収入は100億円。日本映画として初めて「全米ナンバー1ヒット」となり、年間でも興行成績トップ20に入った。2003年には、映画「千と千尋の神隠し」がアカデミーで長編アニメ部門賞を受賞。
しかし、ピークは2006年まで。米国における日本アニメの売上は2587億円をつけたが、その後減少し、2012年は2200億円まで落ち込んだ。原因は、ネット時代を迎え、違法な動画投稿が横行してDVDが売れなくなったから。DVDの売り場面積は減少し、タワーレコードは倒産した。アニメ人気は根強かったが、お金を払って観る人が少なくなり、ビジネスは縮小していった。
2005以降、アメコミは「1億ドル映画」で反撃!
日本アニメがブームだった90年代後半、アメコミは低迷していた。2大出版社はあきらめず試行錯誤を続け、マーベル社はキャラクターライセンスを、DCコミック社は大人向けコミック路線を模索した。なかなか成果が出せなかったが、ゼロ年代に入り、「アメコミ映画」路線で火が付いた。
マーベル社は2000年からの「X-MEN」シリーズ、2002年からの「スパイダーマン」(サム・ライミ監督版)シリーズを当て、その勢いでメリルリンチから500億円を調達した。2008年「アイアンマン」シリーズを、続いて「ハルク」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」をスタート。2012年には200億円を投じ、全キャラクター集合の「アベンジャーズ」を発表。世界興収1500億円の大ヒットとなった。これらの映画を制作したのはディズニーだが、マーベルは2009年、その傘下に入った。
快進撃は続き、2012年「アメージング・スパイダーマン」シリーズ、2014年「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を大ヒットさせた。
一方、DCコミック社も負けてはいない。1969年、早々とワーナー傘下に入り、バットマンやスーパーマンの映画化を進めていた。90年代はマイケル・キートンやジョージ・クルーニー主演の「バットマン」を作ったが、2005年にリブート版(再起動)として、クリスチャン・ベール主演、クリストファー・ノーラン監督「バットマン・ビギンズ」で3部作を開始し、大当たり。2006年からは、スーパーマンのリブート版も始めている。
僕もほとんどの作品を見たが、一本の製作費が1億ドル(100億円!)超という怒涛のSFX映画が14年間で20本という物量には、度肝を抜かれた。ビジネスサイズが桁違いだ。日本アニメの場合、一本の制作費は5億円程度で、前出のポケモンも3.5億円。ジブリ映画は投資が大きく、「千と千尋」が20億円、「ポニョ」が34億円と言われるが、公開ペースは2年に一本。アメコミ映画との規模の差は、一本当たりでも業界全体でも、ザックリ5~10倍はある。アイデアや技術では乗越えがたい大きな差だ。
ところで、なぜアメコミの映画化が起こったか?推測だが、アメコミ出版社は、日本アニメブームを目の当たりにし「アニメが一大ビジネスになる」ことを確信。ただし、米国ではコミックは子供やオタクのものという認識が根強い。大人一般も巻き込むため、アニメでなくハリウッド連携の実写で行こう!となったのではないか。実際、ポケモン映画はファミリー中心だったが、アメコミ映画は若者グループ客が多い。
マンガとアニメ界、環太平洋のエコシステム
「アメコミ派」と「日本アニメ派」の年齢差は、アメコミ誌と日本アニメのブームに10年位のズレがあるのが原因だ。性別は、パワー全開での勝負を描くアメコミには男性が多く、繊細な心の機微を描く日本アニメには女性が多いということ。最近はアメコミも女性客取り込みのため、ミスティークやブラックウイドウといった女性キャラに力を入れている。
人数・性別を、イベントや映画での観客の姿や入場者数から判断すると、下表のようになる。ただしアプリ購入の市場規模は、利用や購入の割合を考慮すると、母数が2倍だがほぼ拮抗する大きさとなろう。
さて、日米のマンガ・アニメ業界は、太平洋を挟み、長らく成長スパイラルを築いてきた。かつて手塚治虫は「ディズニー映画」を観て驚愕し日本初の長編アニメ「アトム」を作り、現代のジェームズ・キャメロン監督は「ジブリ映画」からインスピレーションを得て「アバター」を製作した。
僕も、10代「ヤマト」、20代「スターウオーズ」、30代「UCLA映画」、今「サンフランでアプリ」と変遷をたどっている。日本のコンテンツはアメコミ映画の反撃いらい低迷してるが、この大きな循環を信じると、アプリという形が米国で飛躍する可能性は高い!(Y)
[参考図書]
「結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか?」 2013 板越ジョージ
「日本のアニメは何がすごいのか」 2014 津堅信之
「萌えるアメリカ」 2006 堀淵清治
以上