津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


シリコンバレーで学ぶ③ ボルテージUSA、悪戦苦闘の4年

2016/05/20


◆日本本社の開発部門に頼りすぎ、日本人と現地組が対立

 P2P型のリアル絵アプリを2,3本をローンチさせ、現地スタッフも制作に慣れてきたころ、「本社の開発部に依頼した仕事の戻りが遅い」という声が上がるようになった。
 

 米国側から見ると、ちょっとした改修でも、変更内容をイチイチ文章化して本社にメールしなければならない。しかも、返信が来るのは時差のため翌日。SFが2、3時間で済むと思う小さなエンジン改修も、「複数のアプリにまたがるので1カ月後」と日本から回答が来る。SF20人と日本本社500人。双方の組織体制およびスピード感に大きなズレがあった。
 

vol3_3_2

 日本本社でも改修案件は常に山積みで、赤字のSFは優先順位を下げられ、どうしても後回しにされる。SFの現地スタッフは、こちらの制作ペースが上がらないのは「本社の仕事が遅いからだ」、本社は「SFをそこまで優先できない」と、お互いの関係性がギクシャクしてきた。
 
 その後徐々に、「自前の開発陣を持ちたい!」という声が大きくなっていったが、津谷・東は、スタッフたちに次のように説明した。「コストがかかりすぎる。また、一旦部隊を抱えると、遊ばせるわけにいかないので、企画・制作がじっくりとクリエイティブの試行錯誤をする暇がなくなる」と。口には出さなかったが、開発部隊が暴走する危険性もあった。「制作がしっかり回るようになってから」と説得した。
  
 そんな双方の意識のズレから始まり、我々日本人経営側と現地スタッフ側の対立が激化していく。さらに現地スタッフたちの不満の対象は、制作体制だけではなく待遇面にまで拡大……。具体的には、タイトル(職種名)、ジョブディスクリプション(職務記述書)、残業時間についての改善を手厳しく要求された。
  
 しかし、経営側としては、米国流の組織づくりを学ぶいい機会と前向きに捉え、労務問題の解決に腰を据えて取りかかることを決めた。まず、弁護士に米国の労働法を解説してもらい、改善すべき点を洗い出していった。その後、時間をかけて現地スタッフ一人ひとりと話し合い、合意を取り付け、タイトルとジョブディスクリプションを全面的に見直した。給与額も調整した。感情的な軋轢を生じる作業で、大変な負担となったが、米国人の労働観を直に知ることができ、この寄り道がその後の組織運営に大いに役立つこととなった。
 

1 2 3 4 5 6
このページの先頭へ