津谷祐司 公式サイト

クリエイティブ起業のすすめ


シリコンバレーで学ぶ③ ボルテージUSA、悪戦苦闘の4年

2016/05/20


◆1~2年目の結果と反省。3年目に向かって人材レベルを上げる

 1~2年目の結果としては、P2P型のリアル絵アプリを8本出すことができた。しかし、制作と更新を進めるのが精いっぱいで、大ヒットするまでには至らなかった。ボルテージの強みである「KPIに基づいたPDCA」も導入したが、これが廻り切らなかったこともある。反省点は、先にも説明したとおり、現地スタッフの待遇や残業問題の解決にエネルギーを取られてしまったことだ。感情的な対立により、企画や制作への集中がそがれてしまった。
 
 2人の日本人リーダーが若すぎた、ということもあったと思う。彼らは十分頑張ってくれたのだが、与えられた環境でしっかり成果を出すためのトレーニングが足りなかった。津谷・東の米国理解不足も大きい。
 

 ベンチャーの成功は、核となる人材を集められるかどうかにかかっている。僕は「5人の壁」と呼んでいるが、これが一番重要な鍵だ。経営者以外に、商品・システム・販売・組織運営の4部門で、優秀な専任リーダーを集める。すると、「リーダーが揃う→売れる商品が出せる→会社が成長する→さらに良い人材が集まる」というサイクルを、途切れなく、高速で回すことができるというわけだ。
 
 しかし、優秀なリーダー層を集めるのは至難の業だ。資金調達より何倍も難しいと思う。僕が日本でボルテージを起業したときは、納得できるリーダー層=「5人の壁」が揃えられたのは、創業してから7年目だった。
 
 異国ならではの様々なトラブルが障壁となり、スタートからごたごたが続いたSFスタジオ。早急にリカバリーするためにも、経験豊富な米国人リーダーの採用を急がねばならない。そう考え、1年目の半ばには、経験者の採用を開始していた。
 


◆30歳リーダー層を4名採用。初のSFスクラッチに挑む

 そして3年目。自前の開発部隊を備え、初のSFスクラッチ(まったく新しくゼロからの開発)へ挑戦することを決断。企画・制作の英語版フォーマットは揃ったし、経理・人事の制度面も最低限は整えることができた。その間、不満ばかりが多くて成果が上がらない社員は、申し訳ないが辞めてもらった。
 
 4名の30代米国人を採用し、リーダー候補とした。コンソールゲームの経験がある者、制作経験はないが日系企業で働いた経験を持つ者などだ。半年ほどの練習期間を経て、いよいよ彼らに、リアル絵アプリの実制作を任せることになる。危なっかしく見えたものの、津谷・東は、進行になるべく口を挟まないようにして見守った。制作チーム内で企画プロセスは順調に進んだのだが、その後、開発チームとの連携をする段階で躓くことになった。
 
 結論から言うと、当初、9カ月とみていた開発が延び延びになり、13カ月にもなってしまったのだ。その4カ月の間、マーケティングチームは仕事がなくブラブラすることになり、コミュニティー運用作業でなんとか時間をつぶしてもらったが、当然、彼らの人件費が丸々無駄になってしまった。全社の雰囲気もかなりどんよりしていたように思う。
 
 では、なぜ遅れが生じたのか? 制作リーダーにその原因を問いただすと、「もっと前に出せていたはずなのです」と言うだけ。制作チームと開発チームの意思疎通が取れておらず、問題の原因を追究し、解決するという基本がまったくできていなかった。「できた」と思ったらバグが見つかり、「あと2週間かかる」というトラブルが4カ月の間に何度も続いたのだ。残念ながら、3年経った時点でもSFスタジオの組織はうまく回っていなかった。
 

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